「西の魔女が死んだ」(梨木香歩)①

読書生活のスタートにふさわしい一冊

「西の魔女が死んだ」(梨木香歩)新潮文庫

わたしはもう学校へは行かない。
中学進学後、
不登校となった少女まい。彼女は
片田舎に一人で住む祖母の家で
過ごすことになる。
祖母が語る魔女の修行、
その要点は「何事も自分で
決める」ことだった。
まいは祖母との暮らしの中で…。

「おばあちゃん、大好き」
「アイ・ノウ」

何度読んでも涙があふれます。
私のようなおじさんが
そうなのですから、
若い女性であればなおのことでしょう。
私ごときがあえて紹介するまでもなく、
ベストセラーとなっていて、
映画化もされている、
児童文学の傑作です。

この物語は、簡単に言ってしまえば
一人の少女の成長物語です。
しかし、多くの児童文学とは一線を画す、
いくつかの特徴があります。

一つは、独特の死生観です。
「死んだ」という、
およそ児童文学に似つかわしくない
タイトルにもあるように、
生と死を隠れたテーマとしています。
魔女の能力として、
自分の肉体の死を
予見していたおばあちゃん。
だからこそ、孫娘の魂の成長を
ひたすら願うのです。
「じゃあ、魔女って
 生きているうちから
 死ぬ練習をしているようなもの?」
「そうですね。十分に生きるために、
 死ぬ練習をしているわけですね」

そしてもう一つは、これが梨木文学の
大きな魅力なのですが、
美しい日本語と卓越した表現技法です。
「突然、まいの回りの世界から
 音と色が消えた。
 耳の奥でジンジンと
 血液の流れる音がした、と思った。」

「おばあちゃんと過ごした
 一ヶ月余りのことを、
 急にすごい力で身体ごと
 ぐんぐんと引き戻されるように
 思い出した。
 部屋や庭のにおいや、光線の具合や、
 空気の触感のようなものが、
 鼻孔の奥から鮮やかに甦るような、
 そんな思い出し方で。」

言葉が、視覚だけでなく
読み手の聴覚や嗅覚にも
鋭く訴えかけてきます。

梨木作品は、本書や「裏庭」「りかさん」
「エンジェルエンジェル」のような
明らかに少年少女に向けて
書かれたものと、
「からくりからくさ」「家守奇譚」
「沼地のある森を抜けて」のような
大人向けのものとがあります。
後者の方が当然ながら
文学的表現や周到な伏線に富み、
若い人たちに
ぜひ味わわせたいものばかりです。
そこに到達する入口として、
また中学校1年生の読書生活の
スタートにふさわしい一冊として、
本書を紹介したいと思います。

(2018.10.24)

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